北京での生活~最後のレッスン~

2012.8.17

李先生の専門は、骨粗しょう症以外にももうひとつあってそれは、抑うつ症やうつ病などの精神疾患。
中国語では「焦虑状態」という。 
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今日も、外来では、けっこうな数の抑うつ症の人が来ている。
ひとりは、19歳の女の子。
学校での悩みが原因で、ほとんど睡眠がとれない状態だったのが、半月で、大分眠れるようになったとのこと。
カルテの「抑うつ症」の文字を見て、
「私は、抑うつ症なんかじゃない! お母さんが、私のこと、むりやり連れてきただけで、ちょっと眠れなくなってただけよ。」
と叫ぶ。
「もうあなた19歳の大人なんだから、自分の行動に責任をもちなさい。あなたは自分の問題を、ものすごく大変なことだと思っているけど、人生の80~90パーセントは、思い通りにならないことばかりなの。その中で、自分で楽しく、生きていくのは、これから先、すべて自分一人の考え方ひとつにかかっているのよ。
漢方薬で、精神状態が良くなってきているのだから、ここからは、自分で生活や気持ちの持ち方を変えていかないと、一生同じことよ。」
と厳しい言葉。
女の子は、びっくりした顔をして聞いていたけど、しばらくして、
「わかりました。」
と言って、薬を取りに行っていた。
一人っ子政策で、精神的に弱い子供が増えていると聞いていたけど、こんな子供が多いのかも。
また、しばらくすると一人の患者。
「時間がないから、私の症状に効く薬をすぐに出して。1か月分ね」という。
「すぐに治る霊薬なんて、世の中にないのよ。人の体は、日々変わる。中医は人の変化と一緒に歩くの。
そのためには、医師と患者が意思疎通しながら、薬の中身を変えていかなきゃいけない。あなたに出す薬はないわ。受診費は返金するから、帰ってちょうだい。」
『中国医学は、人の変化と一緒に歩く』か。
いい言葉だな。
私が李躍華先生から、学んでいることは、漢方や薬膳の処方だけじゃない。
患者の心も体もひっくるめて、「その人」に関わって治療するという、中医の精神。
今日で、レッスンは、最後。
西苑に来たからこそ、感じられるものがたくさんありました。
先生ありがとうございました。
先生と抱擁を交わして、別れる。
「来年、また来るんでしょ?」
これたら、いいなと思いながら、ドアを閉めた。