2012年8月7日 中国中医科学院西苑病院 「清宮医案研究」の権威「陳可冀」氏のもとで、西太后のカルテ研究

2014.11.5

3月に、北京に行ったときに、西苑の教学部に今回の7月からの留学の申し込みをしておきました。

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手続きは、来た日にすればよいとのことでしたが、陳可冀先生に会える機会があるかどうかは、わからないまま。
なんせ彼は、80歳を超す高齢。院士と呼ばれる特殊な立場にいて、「特需問診」と呼ばれる、彼の専門外来の日しかいないというのですから。

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強力なコネやマネーがあれば、話は別ですが、私の場合はそんなものはなし。
ただ、彼に会って、実際に西苑医院で学びたいという思いだけ。
4月に、陳先生あてに、手紙を書き、自分の経歴と著作を入れて、送りました。
結局、出発まで、お返事はありませんでした。
どうしようか。。。。
だめなら、3週間の北京旅行を楽しんでもいいよね。そう気持ちを決めてチケットを予約しました。
さて、北京に到着して、2日目、西苑の教務課へ
「陳可冀先生は、ほとんど来ないから、無理だよ。他の心臓血管科の先生の外来なら、手配できる。」
思った通りの返事。
食い下がってみたけれど、担当官は、退屈そうにコンピューターのキーボードをたたき始めました。
「脈なしだな。。。。」
なんとか陳可冀先生に会えないものか。

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彼のオフィスへ行ってみました。やはり不在。しばらく時間をおいて、また、行ってみて。。。。とうとう会えずじまいでした。

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メモに携帯番号をかいて、部屋のドアに張り付けて帰宅。
・・・・きっと助手にすてられるだろうな・・・・
翌日も少し早めにオフィスへ。
今回は、総務課へ行ってかけあってみました。主任らしき女性が、気の毒そうに
「つながらないと思うけど。。。」といいながら、彼のオフィスの電話番号を教えてくれました。
「入院病棟の方へ行ってみたら、運がよければ会えるかも。」
とのこと。
心血管病棟の執務室で、声をかけました。

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「陳可冀老師在不在?(陳先生は、いらっしゃいますか)」
7.8人の医師が談笑しています。私の声が聴こえなかったみたいに、談笑が続きます。
もう一度、尋ねました。
「你有約会嗎?(約束しているの?)」
「有!(あるわ)」
「你去他的弁公室看看。(かれのオフィスに行ってみたら?」
と、また、談笑が始まりました。
・・・・あらあら、振り出しにもどっちゃった・・・・
まったく相手にされないというのは、中国ではよくあること。
別に悪意があるわけでなくて、私に親切にしてあげなくてはいけない理由がないのです。
理由さえあれば、実によくやってくれるのですけど。なんせ今回は何のコネもなく来ているのだから、親身になってもらうのは、むずかしいわけです。
行けば、なんとかなるかも、って思ってたのは、甘かったなぁ。
中国での生活に慣れているとは言っても、この後の数週間のことを考えると、切なくなります。
いいや、泣いちゃえ。オフィスに通じる階段に座って、思いっきり泣いてみました。
看護士たちが、おかしなやつという顔で、通り過ぎていきます。
ひとしきり泣いたらすっきりしました。
明日、もう1回行ってみて、だめだったら、心血管科の外来に申し込もう。どこかのタイミングで会えるかもしれないもの。
今日は、帰ろう。

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夕食は、おかあさんが、紅焼肉ホンシャオロウ(皮つき豚肉の醤油煮)を作るって言ってたな。
私は、野菜を炒めよう。
市場で青菜とライチを買って、家へ向かいました。
仕方ないよね。

* * *

今日は、研修に必要なお金を人民元に代えて、また、西苑医院へ。
西苑医院から、西太后が離宮として過ごした頤和園までは、目と鼻の先。
彼女との縁を感じます
みどりが深くて、静かな場所にあります。
さて、今日は、あきらめて、心血管科にとりあえず申し込むことにしよう。
学校に行ってみると、チャイナドレスを着たコンパニオンらしき女性が門にたくさんたっています。
門番に
「今日はなにがあるの?」と訊くと、
「検査と会合があるんだよ。」とのこと
中国の病院は、設備や診療内容によって、等級があり、西苑医院は、最もレベルの高い3級というランクになっています。
そして、レベルが維持されているかどうかの検査があります。
運悪く、今日はその日にあたってしまったみたいです。
門の前で、検査チームの到着に集まってきた人の中に、教務室の担当官がいます。
いやな予感がして、
「今天、能不能报名(今日、申込みできる?)」
「今天、太忙不了。明天再来(今日は、忙しくて無理。明日もう1回来て)」
また、明日??冗談じゃないわ!
彼をおいかけて、階段を上っていきました。
ふと階段のしたの方を振り向くと、西苑の医者らしき人たちに囲まれて、老人が階段を上ってくるのが見えます。
あの顔、見覚えが。。。。
陳可冀先生だわ!
あんまりびっくりして、階段でつまづいて、思いっきり脛をうちました。
脛をさすりながら、彼が階段を上がりきるのを待って、思い切って声をかけました。
「您是不是陳可冀老師?(陳可冀先生ですよね)」
「対、你是哪里?(そうだよ。君は?)」
「我5月肦給您写信的日本薬膳専家、阪口珠未’(4月にあなたにお手紙をさしあげた、薬膳の専門家 阪口珠未といいます。)」
「対了。我看了。您的信。(そうだ。私は、君の手紙を見たよ)」
「・・・・・但是、看不出来是你。你寄給我的照片、很漂亮。(・・・・でも、今、君だとは、わからなかった。君が送ってくれた顔写真は、とてもきれいだったから。)」
ちょっと待て待て、、、先生。実際の私はきれいじゃないって言ってるの?
確かに今日は、ジーンズに、キャップに、パツパツのティシャツだし。
この先生、ちょっとおもしろい。と思ったら緊張がほぐれました。
「先生、今日は、どうして、いらっしゃったのですか?」
「検査があって、会合にでなくちゃいけないからね。」
「会合まで、ちょっとお話ししていいですか?」
そのまま、先生のオフィスへ。
ちょうど、教務課に渡すために、中国語で書いた履歴書をもってきていたので、それを渡して、言いました。
「先生の『清宮医案研究』は、すばらしいです。この本に書かれていることを、もっと詳しく知りたくて、先生に会いに来ました。」
「どの本を読んだの?」
私は、彼の本の名前をいくつか言いました。
それぞれの本の内容と、処方の使い方について、しばらく話をしていると、
突然、となりの部屋に消えました。
べりべりべりと、紙を破る音が聞こえたと思ったら、
分厚い黄色い本を持って現れました。
「この本は、もっている?」『中国宮廷医学』という彼の著作です。
「いえ、もってないです。」
「これは、他の本にないことが、書いてあるから、参考にするといい。」
本の中表紙に、サインと私の名前を入れてくれました。
そして、その後は、彼の恩師にあたる岳美中先生の話に。
岳美中先生はインドネシアのスカルノ大統領の腎結石を漢方治療で治すなど、著名な中医学家です。
岳美中先生の老人医学分野での功績を語ったあと、急に遠い目になりました。
また部屋の奥に行って、袋を破っています。
「岳美中先生の本だよ。ここの〇〇ページに、老人に対する薬膳の使い方が詳しくかいてある、持って帰ってよく勉強しなさい。それから、これを飲みなさい。」
オレンジの分厚い本を3冊とペットボトルのお茶を同時に差し出します。
すごくおもしろい先生だな~。
病院には、特別な時しか、出てこないこと、私が学びたい内容については、老人病棟の主任医師の李躍華先生がいいといいます。「李先生に言っておくから、就いて学ぶように」と、李先生の携帯番号をくれました。

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「清の時代の処方のことで、先生に質問したいことがあるんです。メールで訊いてもいいですか?」
「いいよ。メールでもいいが、携帯番号はこれだから。」
名刺に裏に携帯番号を書いてくれました。
しばらくすると、助手が先生を呼びに来ました。
「会合がはじまります。」
「先生、今日は、病院の検査があって、ホントに私は運が良かったです。おかげで先生に会えたから。」
お辞儀をして、部屋をでました。
李先生の携帯番号が書かれたノートを何回も見ます。
明日こそ申しこもう。
神様、ありがとう!

* * *

 主婦の友社から、新刊が発売になります。
 「西太后のアンチエイジングレシピ」
西太后というと、「悪女」というイメージが付きまといますが、実は、彼女のことを調べてみると、生命力あふれる、とても魅力的な女性。
平均寿命50歳の時代にあって74歳の天寿を全うし、しかも、シワ、シミもほとんどなく、髪も豊かに黒かったと言われています。
60代の彼女を見て、イギリス外交官が「40代の女性にしか見えない」と証言しています。
その西太后を含めた清の時代のカルテが、北京の西苑医院の陳可冀氏によって、2006年に編纂されています。
私がこの夏留学した目的は、宮中カルテについて、学ぶためでした。詳しくはこちら⇒
西苑で学びながら、西太后のことを調べていくと、興味深いエピソードにあふれていて、夢中になりました。
そして、今回出版になる本の中では、ストレスフルな清代末期を生き抜いた彼女が、不調を克服し、美しさと若さを保ち、好奇心をもち続けた秘訣を、紹介していきます。
今回のレシピはすべて撮り下ろし、書き下ろし、3日間集中で撮影をしました。
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まずは買い出し。60点以上のレシピを取るので、買い物も半端な量ではなくて。
今日は、生徒さんの一人Yさんに、お手伝いいただきました。
漢方キッチンのスタジオに設備が運び込まれ、撮影が開始です。
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編集のKさんとスタイリストのOさん。
撮影の方法などを相談中。
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私の方は、料理をどんどん作ってます!
今回のレシピは、西太后が食べた食事や薬膳メニューの再現レシピと、彼女が常に食べていた食材を使った「手軽にできる西太后レシピ」
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ちょっとだけ、お見せしちゃいます。こんな簡単そうなメニューもありますよ~。
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こちらは、西太后が愛した「肉のメニュー」
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鍋メニューを撮影中。
自分で言うのもなんですが、中身、かなり濃いです。ご期待ください。
11月16日 全国の書店にて発売です。

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