薬膳を語る 阪口珠未ロングインタビュー(20)

▽「ゼロ」に戻れる場所を

──経営コンサルタントの投石先生とはどのように新規事業の話を進めたのですか?

頭に描いた「漢方キッチン」をどう実現するかを考え、先生に相談しました。

「阪口さんは、その場で何をしたいのか」ということをよく聞かれました。事業のコンセプト固めですね。 「何 がしたいのか、だれに売りたいのかが決まれば、どういう所で店をするべきかも定まっていく」と。

私はコンセプトを「体と心をリリースする場」と答えました。そこに来れば、体の相談もできるし、気持ち がリ ラックスして、またやるぞと思える。つまり、みんなが「ゼロ」に戻れる場所にしようと決めました。

そして外食という形が浮かんできました。それもレストランではなく喫茶店。当時すでに薬膳料理を出すレ スト ランは日本にありました。でも、薬膳喫茶というのはなかった。これはいける、誰もやっていないなら面白いと思いました。

──レストランではなく喫茶?

そのとき頭に浮かんだのが、留学時代に香港や広州で見た薬膳喫茶店だったんです。そこでは季節に合ったお茶が大きなガラスの瓶に入って いま した。

例えば、南方の暑い地域では、体の中に熱がこもり、それで伝染病が流行する要因になるので、夏は抗菌作用のある菊の花や「百花蛇舌草」 とい う漢方を組み合わせたお茶を売っていた。お客さんは、コーヒーを飲む感覚で一杯飲んで会社に行ったりしていました。さらにデザートも亀の 甲羅のゼリーや仙草という薬草のゼリーなどがありました。

▽資金がない

──外食という形で薬膳の知識を生かすと。

のころすでに、加古川や姫路など近くの自治体から呼ばれて料理講習会を開くことはありました。参加者 は広 報誌を読んで申し込んだ主婦が多く、多いときには40人ほど集まりました。時間のある年配の人に来ていただくのは、とても意味のあること です。一方で、こういった講習会にはサラリーマンやOLなどがほとんどいなかったのも事実。社会システムの中で最も疲弊している現役 世代 に私の技術を伝えるには、やはり外食のお店がよいだろうと思ったんですね。季節ごとに合ったお茶やデザートをセレクトしてあげる店があれ ば、人は簡単に体を整えることができるのではと考えました。

と、新規事業のアイデアを練っていくのは楽しい作業でした。ですが、肝心なことに気づきました。

お金です。事業を始める資金がなかったのです。

──資金集めについて、投石先生からはどのようなアドバイスがありましたか。

さすがは「新規事業の達人」と呼ばれた人です。兵庫県中小企業振興公社で「新産業創造プログラム」を募 集し ている、という話をされました。これは今までにないビジネスモデルを打ち出した対象者に対して、振興公社が会社設立資金の半分を出資する というものでした。先生は「薬膳の喫茶店をやるのであれば、今までにはない業態になるのではないか」と言いました。

それはいいアイデア。でも、どうやって応募すればいいの?

「阪口さん、まず事業計画書を書いてみましょうよ」。先生は何も知らない私に、貸借対照表、損益計算書 など の見方、書き方を根気よく教えてくれました。今考えると、このときの勉強は本当にありがたかった。先生はとても現実的な人で、例えば、1 日1万円売り上げれば1月で30万円になるというような計算を私がしていると、却下した。

「いいですか、1杯いくらのお茶があって、そのお茶を何席のお客さんに提供し、何回転させるのか。そのように考えてください」と。なるほどと思いました。

そうやって、学びながら事業計画書を作成し、1999年1月、新産業創造プログラムに応募しました。