図書館のおっちゃん

2024.3.3

「私が珠未さんにはじめて薦めた本が何だったか憶えてる?」

先日、仕事で実家に帰った際、町立図書館の前館長「小寺啓章」さんにお会いしたときの彼の言葉。

「いや~憶えてないです。小寺さんは憶えていらしゃるんですか?」

「最初に君に貸し出した本はK.M.ペイトンの『愛の旅だち』という本やったよ。思春期を迎える時期に上質なロマンス小説を読むことはとても大切やからね。」

30年以上前の話なのに、私に貸し出した本の名前が次々に彼の口から出てくる。

驚きとともに感動を禁じえなかった。

私が中学生のとき、私の故郷である兵庫県の太子町という小さな町に新しい図書館ができた。
そのときに20代の若さで館長として抜擢されたのが、後に「日本一の図書館司書」と呼ばれるようになった小寺さんだった。

設計の図面作成から関り、当時画期的だった3面ガラス張りの平屋づくりの図書館を完成させた。

あるイベントで小寺さんに初めて会い

「図書館においで」と誘われて訪れたのが中学3年生のとき。

最初に薦めてもらった本は憶えていないものの、それ以来、図書館に行くたびにおすすめの本を用意してくれていた。

小説、詩集、哲学書、伝記などなど。
その中に私に新しい世界観をくれたレイチェル・カーソンの「沈黙の春」もあった。

中学生には難しかったけれど、初めて環境問題を知った本だった。

そう、彼は私の人生に大きな影響を与えた人の1人。

図書館館長を退職されてから20年以上になる小寺さんに、現在の図書館の館長を務める友人を通じて、久しぶりに会える運びとなったのだ。

太子町図書館の館長室で、お茶を飲みながら改めて彼の仕事について、今までの歩みについて話を聞くことができた。

話を聞いて分かったことは、彼は40年以上の図書館館長人生の中で、私をはじめ図書館にやってくる大勢の子供たちに、その子にふさわしい本を選んで薦めていたのだった。

そして、「ふさわしい本」を決めるために、彼が長年使っていたのが「子どもたちの感想ノート」

本を読み聞かせしたり、薦めたりしたときに返ってくる子供たちの反応、感想を日付、名前とともに大学ノートにすべて書き記していたという。

そして大学ノートを見返していると「その子に次に薦めると良い本が見えてくる」という。

「こんな風に感じるもんなんやとか、こういうものが好きなんか、とか本当にいろいろ発見があるんや。図書館員はこれは全員やったほうがいい」

館長となった友人も一緒に熱心に耳を傾けている。

私にとっては、いつもおもしろい本を貸してくれる「図書館のおっちゃん」だったけれど、

こんな地道なことの積み上げから、本を選んでくれていたのかと改めて胸が熱くなった。

人口3万の小さな町の町立図書館の館長という公務員。

でも、彼の生き方の姿勢は「公務員の枠」を超えていた。

「一隅を照らす」と言う言葉がある。

どんな小さなことであっても、自分の思い、情熱というともしびを持って照らすことで、
その光が生みだす「世界」がある。
その世界によって、励まされ、救われ、その人らしい生き方を選ぶ知恵と勇気をもらえる人たちがいる。

私もその光を受け取った一人だ。

小寺さんに、今何をされているのかを聞いてみた。

「今は、おかげさまで日本中のいろんなところに呼ばれて講演したり、図書館の館長たちにゼミ形式で教えたりしてるかな。
児童書の作家さんたちと会ったりもするし、新しい本も読まないといけないし。
まあまあ忙しい。」

という答え。

今年77歳。
ずっと「一図書館司書」として生きてきた。
中学生のときに「何となくすごい」と思った、「図書館のおっちゃん」は80代を迎えようとする今も、たくさんの本を抱え、現役感満載で素敵だった。

どんな仕事でもいい
どんな役割でもいい
どんな立場でもいい

どこからでも、「今の自分」から世界を照らすことができるんだ。

東京に帰る新幹線の中。

私の中にある「ともしび」に触れてみた。

まだ燃えているみたいだ。

あなたの「ともしび」は何ですか?

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